「フォニックスは意味ない?」研究でわかる、フォニックスの本来の目的
子どもが「cat」「dog」「hat」を、習ったとおりに音をつなげて読めた。親にとってうれしい瞬間です。ところが次のページの「the」「said」「one」で、さっきの読み方が急に通じなくなります。教えたそばから例外が出てくる。これだけ例外があるなら、フォニックスを覚えても仕方ないのではないか。英語をやり直している大人にも、似た引っかかりがあるはずです。
「フォニックス 意味ない」と検索する人の多くはこの感覚を抱えています。英語はつづりと発音のずれが多く、規則を覚えても割に合わないのではないかという疑いがあります。
フォニックスは、つづりと音の対応を学び、初めて見る単語を自分で読めるようにする方法です。発音をきれいにする訓練でも、単語を丸暗記する作業でもありません。文字を音に変える「解読」のスキルです。
目次
読み書きは、放っておいて身につく力ではない
話す・聞く力と違い、読み書きの力は、周りの言葉を浴びているだけでは育ちません。
子どもは、教室に通わなくても母語を話せるようになります。周りの会話を聞き、まねをするうちに、数年で文法も語彙もひとりでに身につく。人間の脳は、話し言葉を自然に覚えるようにできています。ところが、読み書きはそうではありません。文字は、話し言葉の歴史に比べればはるかに新しい発明で、脳にはもともと読むための仕組みが備わっていません。
Gough と Hillinger は1980年の論文は、読みを覚えることを「不自然な行為」と呼びました。ふつうに育ち、ふつうに教わった子でも、読みはかなりの苦労を伴って身につくのであって、自然に身につくのではない、というのが二人の見解です。
ここで一つ、大事な切り分けがあります。読むという行為は、大きく二つに分かれます。文字を音に変える「解読」と、その音の連なりから意味をつかむ「理解」です。このうち理解のほうは、話し言葉で育ててきた自然な力がそのまま使えます。問題は解読です。文字と音の対応は、聞いているだけ、眺めているだけでは、ひとりでに気づけません。フォニックスの役割は、この解読の部分です。

フォニックスは何のためにあるのか
フォニックスの目的は、初めて出会った単語を自分の力で音にできるようにし、そこから読める語をひとりでに増やしていくことです。
つづりと音の規則が身につくと、「splash」を見たことがなくても、s・pl・a・sh と区切って音をつなぎ、読めます。これが解読です。ただ、フォニックスのねらいは「その一語が読める」ことにとどまりません。もっと大事な働きがあります。

Share は1995年の研究で、解読には「自己学習」の働きがあると示しました。初めての単語をうまく解読するたびに、その語のつづりの形が記憶に残ります。次に同じ語に出会ったときは、いちいち解読しなくても、ひと目で読めるようになります。解読は、新しい語を自分に教え込む仕組みなのです。だからこそ Share は、解読を読み習得に欠かせない条件と位置づけました。フォニックスを教えるのは、目の前の単語を読ませるためだけではありません。子どもが自力で語彙を増やしていくエンジンを、手渡すためです。
一文字ずつ神経を使わずに単語を音にできるようになると、頭の余力が意味の理解に回ります。単語の認識が自動になるほど、限りある注意を内容の理解へ振り向けられるからです(LaBerge & Samuels, 1974)。
ここで、よくある取り違えが三つあります。(1)フォニックスは発音矯正ではありません。ネイティブのような発音を保証する方法ではなく、つづりを音に変えるための手がかりです。(2)フォニックスは丸暗記でもありません。単語カードで一語ずつ覚える作業とは反対に、規則から未知の語を読み解く力です。(3)そしてフォニックスは意味理解でもありません。「read」を正しく音にできても、それが「読む」だと分かるかは別の話です。
この区別が、「意味ない」という評価のかなりの部分を生んでいます。発音も意味も一気に解決する魔法だと期待すると、そうならないから失望しても仕方ありません。フォニックスにできるのは、あくまで文字から音への橋渡しです。ただ、それ自体が、読みの自立への出発点になります。
学び方しだいで、脳の使う回路が変わる
同じ単語を覚えるのでも、文字と音を結びつけて学ぶか、単語をまるごと丸暗記するかで、脳が使う回路が変わります。
読みに熟達した大人でも、これは起こります。Yoncheva、Wise、McCandliss は2015年の研究で、大人に人工的な文字(新しい記号でできた単語、)を教えました。一方のグループには、記号の一つ一つを音に結びつけて読ませ(文字と音の対応=フォニックス型)、もう一方には、単語をまるごと形で覚えさせました(丸暗記型)。学習後に脳の反応を測ると、文字と音を結びつけて学んだグループでは、読みをつかさどる左半球の回路が強く働きました。丸暗記型では、そうなりませんでした。さらに、フォニックス型で学んだ人は、習っていない新しい単語も読めました。丸暗記では、そうはいきません。
「音を聞き分ける力」がフォニックスの土台になる
文字と音を結びつける前に、そもそも単語の中の音を聞き分ける力が要ります。これを欠くと、フォニックスは空回りします。
「cat」という単語を、/k/・/æ/・/t/ の三つの音に分けて聞けます。この、話し言葉の音の構造に気づく力を「音韻意識(おんいんいしき)」と呼びます。音韻意識にはいくつかの段階があります。単語を音節に分ける、語の先頭の音とそれ以外に分ける、といった大きな単位から、一つ一つの音(音素)まで分ける細かい単位まであります。このうち、音素という最小の単位に気づく力を、特に「音素意識(おんそいしき)」と呼びます。音韻意識が音の全体的なまとまりへの気づきで、音素意識はその中の個々の音への気づき、という関係です(Share, 1995)。
なぜこれが土台なのか。フォニックスは、文字と音を結びつける作業です。ところが、「cat」を /k/・/æ/・/t/ と分けて聞けない子は、c にどの音を当てればいいのかを、そもそもつかめません。音が分けられて初めて、その音に文字を貼れます。だから音素意識は、フォニックスより前か、少なくとも同時に育てる必要があります。音素をはじめとする音の構造への気づきが、読みの習得を支える中心的な力であることは、繰り返し確かめられています(Share, 1995)。
日本語話者には、ここに固有の壁があります。かなの「か」は、それ自体が一つのまとまりで、/k/ と /a/ に分けては書きません。日本語で読み書きを覚えた人にとって、音を音節で区切るのは自然でも、その内側の音素まで割るのは、あまり使ったことのないスキルです。英語のフォニックスは、この音素レベルの分解を求めます。文字の音を覚えたのに、なぜかうまく読めない。そういうとき、原因が音素意識の側面にあることは珍しくありません。文字を教える前に、音だけで遊ぶ時間(単語の音を伸ばす、頭の音をそろえる、など)を少し取ると、この土台が整います。
英語と日本語の音の数の違いも壁になります。日本語の母音は5つ(ア・イ・ウ・エ・オ)ですが、英語の母音はそれよりずっと多く、十数種類あるとされます。ただし、英語の母音をいくつと数えるかは分析や方言によって変わり、研究者のあいだでも一致していません。数え方はともかく、日本語より母音の区別が多いのは確かで、日本語にない区別を新しく聞き分け、文字と結びつける必要があります。

「英語は例外だらけで意味ない」は正しいのか
英語のつづりが読みにくいのは事実です。ただ、そこから「フォニックスは無駄だ」と決めるのは言い過ぎです。
まず、都合の悪いほうから紹介します。英語は、アルファベットを使う言語の中でもとりわけ読みにくい部類に入ります。Seymour、Aro、Erskine の2003年の研究は、英語を含む13の欧州言語で、子どもが読みを身につける速さを比べました。フィンランド語やスペイン語のように、つづりと音がほぼ一対一の言語では、多くの子が入学一年目のうちに正確に読めるようになります。英語はそこに届きません。英語圏の子が基礎的な読みを固めるまでにかかる時間は、フィンランド語やスペイン語のおよそ二倍以上でした。
ただ、Seymour たちが示したのは「時間がかかる」ことであって、「規則が効かない」ことではありません。逆に言えば、読みにくい言語だからこそ、規則を明示的に教える価値が上がります。つづりが簡単な言語なら、子どもは対応を自然に見つけてしまいます。英語では、放っておくと気づけない対応を、順序立てて教える必要があります。フォニックスが英語圏で重んじられるのは、英語がやさしいからではなく、難しいからです。
「例外が多い」という観察は正しくても、「だから規則を学ばなくていい」という結論は、そこからは出てきません。
フォニックスでどこまで読めるのか
少数のルールと、少数のよく出る単語を覚えるだけで、日常のテキストに出てくる短い単語の大半が読めます。
Solity と Vousden の2009年の研究がこれを示しました。二人は実際の本を集め、どの文字をどの音で読んでいるかを数えました。ここでの「一つのルール」とは、ある文字を決まった音で読むつなぎ方一つ分です(shを「シュ」、ai を「エイ」など)。よく出るつなぎ方のルールを上から64個覚えれば、本に出てくる単語の4分の3ほどが読めました。そこに the や was のようなよく出る単語を100語ほど足すと、文章中の短い単語(一音節語)の9割が読めます。英語の文章は約7割がこの短い単語です(Vousden, 2008)。覚えるルールを絞っても、読める範囲は広い。
ただし、この9割は短い単語の話です。international のような長い語は、頭やお尻の部分や語のもとの形を手がかりに、別のやり方で読みます。それでも、出発点のルールが意外なほど少ないという発見は軽くありません。Castles、Rastle、Nation による2018年の大きな検証「Ending the Reading Wars」も、この結果を支持しています。
「例外」とされる単語の多くは、全体が不規則なのではなく、一部だけが規則から外れています。
Hanna たちの1966年の大規模な調査は、17,310語を分析し、英語の単語をおよそ三つの層に分けました。約半分は、音と文字の対応どおりに読み書きできる規則的な語です。さらに約三分の一は、一か所だけが規則から外れる、ほぼ規則的な語です。完全に不規則な語は、4%ほどにすぎません。一音節語だけを対象にした Kessler と Treiman の2001年の研究でも、完全に不規則な語はやはり4%ほどでした。
| 層 | 割合の目安 | 中身 | 例 |
|---|---|---|---|
| 規則的 | 約50% | 音と文字の対応どおりに読み書きできる | cat, ship, hand |
| ほぼ規則的 | 約34% | 一か所だけが規則から外れる | said, give, come, the |
| ほぼ不規則的 | 約12% | 規則から外れる箇所が二つ以上ある語 | colonel, was |
| 完全に不規則 | 約4% | 丸ごと覚えるしかない | of, bourgeois |
表: Hanna ほか(1966)による英語の単語の規則性の内訳。つづり(書き)の分析にもとづく数値。
大事なのは二番目の層です。「said」を例にとります。s は /s/、d は /d/ で、規則どおりに読めます。外れているのは、ai を /e/ と読む一か所だけです。「was」はもう少し複雑で、母音が /ʌ/ に変わり、さらに s が /z/ に濁ります。それでも、外れているのは二か所です。こうした語は、全部を暗記する必要はありません。読める部分は読み、外れている一、二文字だけを覚える。英語圏の指導で「sight word)」と呼ばれる方法は、この考え方に沿っています。
そして、本当に不規則な少数の語は、使用頻度の高い機能語に偏っています。「of」のような、毎日目にする語です。だからこそ、覚える対象は限られます。頻出する一握りを覚えてしまえば、残りは規則で読める。丸暗記すべき語を、少数に絞り込めるわけです。
読めることは、学びの入り口になる
フォニックスは、読むことを楽にするための道具です。では、なぜ読むことを楽にするのが、それほど大切なのでしょうか。
読書の目的は、単語を増やすことだけではありません。読んで内容をつかみ、それについて考え、書き手が伝えようとしたことを受け取る。読むことは、書き手と読者のあいだのコミュニケーションです。
また、読むことを楽にすると、もう一つ、見えにくい効果があります。悪循環を断てることです。読むのがつらい、だから読まない、読まないから慣れない、慣れないからますますつらい。この輪にはまると、読書そのものが嫌いになります。解読が自動になり、読む負担が減ると、この入り口でつまずかずにすみます。読めるから、もう少し読む。その積み重ねが、読書への前向きな姿勢を育てます。

読むことは、学びや情報を得るための主要な入り口です。だとすれば、読書に対する構えは、生涯にわたる学びを左右します。子どもには、読むことの楽しさと値打ちを感じ、自分から読む力を伸ばしていってほしいものです。そのためにできるのは、いらない障壁を取り除き、読むことと学ぶことを楽しめる場を整えることだと私は考えています。英語の学習でも同じです。読める範囲が広がれば、学べることも広がり、英語力も全体として底上げされます。フォニックスは、その障壁を取り除く働きがあります。
日本語話者が知っておきたいこと
ここまでの研究は、そのほとんどが英語を母語とする子どもを対象にしています。日本語を母語とする学習者にそのまま当てはまるかは、まだ十分には分かっていません。
正直な話をします。Seymour たちも、Solity と Vousden も、Hanna も、調べたのは英語圏の読み手です。英語を母語としない、まして文字体系の異なる日本語話者に、同じ数字がそのまま成り立つ保証はありません。方向としては妥当でも、一対一で移せるとは言い切れない。ここは誇張せずに置いておきます。
日本語話者ならではの引っかかりは、もう一つあります。ローマ字です。ローマ字は日本語の音をアルファベットで書く体系で、英語のフォニックスとは母音の対応が違います。「a」をローマ字の癖で「ア」と読むと、英語の cat の a(/æ/)からずれます。ローマ字に慣れた人ほど、最初はここで戸惑います。混同を避けるには、ローマ字と英語のフォニックスを別物として、意識して切り替える必要があります。
大人にとっての意味も、ついでに触れておきます。子ども向けの方法だと思われがちですが、初めて見る単語を音にする力は、大人の学習でも土台になります。単語を音にできないと、覚えるのも、聞き取るのも遠回りになります。始めるのに遅すぎる、ということはありません。
よくある質問
フォニックスは何歳から始めるといいですか?
決まった「正解の年齢」はありません。英語圏では、文字と音の対応を4〜6歳ごろから本格的に教え始めます。日本語話者の子どもの場合、まず日本語の土台があるので、英語の音に慣れる遊び(歌やライミング)は早くてもよい一方、文字と音の規則をきちんと教えるのは、アルファベットに親しんでからで十分です。年齢よりも、本人が文字に興味を持ち、簡単な音の区切りを楽しめるかどうかが目安になります。焦って早めるより、無理なく続けられる時期を選ぶほうが、結局は近道です。
家庭ではどう教えればいいですか?
一度に多くの規則を詰め込まないことが第一です。文字に入る前に、まず音だけで遊ぶ時間を取ると、後が楽になります。単語の音を区切って言う、頭の音が同じ言葉を集める、といった遊びで、音を聞き分ける耳が育ちます。そのうえで基本的な文字の音から始め、その音だけで読める短い語(cat, dog, sit など)で「読めた」という体験を積みます。高頻度の例外語は、外れている一、二文字だけを指さして「ここは覚えるところ」と分けて扱うと、混乱しません。
ローマ字と混同しませんか?
最初は混同しがちです。ローマ字は日本語の音を書く仕組みで、英語のフォニックスとは母音の対応がずれます。対策は、二つを別の体系として扱うことです。「英語の時間は英語の音」と切り替えを意識するだけでも、ずれは小さくなります。子どもの場合、英語の音を先に耳で慣らしておくと、文字を導入したときの混乱が減ります。
大人が今から始めても意味がありますか?
あります。フォニックスは子ども専用の方法ではありません。初めて見る単語を自分で音にできると、語彙を増やすのも、リスニングで聞き分けるのも楽になります。大人はすでに多くの単語を目で覚えているので、規則を知ると「なぜこう読むのか」の裏づけができ、あいまいだった読みが整理されます。始めるのに遅すぎる、ということはありません。
大人は何から手をつければいいですか?
順序は子どもと同じで構いませんが、大人はずっと速く進めます。まず子音と短母音の基本の音をひととおり確認し、cat, ship, stop のような短い語で音をつなぐ感覚をつかみます。次に、make や time のような語尾の e で母音が伸びる型、そのあとに ea, oa, ai などの母音の組合せへ進みます。ここまでで、出会う語のかなりの部分に手がかりがつきます。大人ならではのつまずきは、すでに耳で覚えている読みが規則とずれている場合です。自分の発音を音声つき辞書で答え合わせし、ずれた語だけを直していくと効率が良いです。
フォニックスを覚えれば、辞書なしで全部読めますか?
全ては読めません。フォニックスが助けるのは、文字を音に変えるところまでです。多音節語の弱い母音や、意味そのものは、別に補う必要があります。それでも、出会う語の大半に手がかりを与えてくれるので、読みの自立に向けた土台としては欠かせません。フォニックスは万能ではない、しかし土台としては強力、というのが正直なところです。
参考文献
- Castles, A., Rastle, K., & Nation, K. (2018). Ending the reading wars: Reading acquisition from novice to expert. Psychological Science in the Public Interest, 19(1).
- Gough, P. B., & Hillinger, M. L. (1980). Learning to read: An unnatural act. Bulletin of the Orton Society, 30, 179–196.
- Hanna, P. R., Hanna, J. S., Hodges, R. E., & Rudorf, E. H. (1966). Phoneme-Grapheme Correspondences as Cues to Spelling Improvement. Washington, DC: U.S. Office of Education. (ERIC: ED128835)
- Kessler, B., & Treiman, R. (2001). Relationships between sounds and letters in English monosyllables. Journal of Memory and Language, 44.
- LaBerge, D., & Samuels, S. J. (1974). Toward a theory of automatic information processing in reading. Cognitive Psychology, 6(2), 293–323.
- Seymour, P. H. K., Aro, M., & Erskine, J. M. (2003). Foundation literacy acquisition in European orthographies. British Journal of Psychology, 94(2), 143–174.
- Share, D. L. (1995). Phonological recoding and self-teaching: Sine qua non of reading acquisition. Cognition, 55(2), 151–218.
- Solity, J., & Vousden, J. (2009). Real books versus reading schemes: A new perspective from instructional psychology. Educational Psychology, 29(4).
- Vousden, J. I. (2008). Units of English spelling-to-sound mapping: A rational approach to reading instruction. Applied Cognitive Psychology, 22(2).
- Yoncheva, Y. N., Wise, J., & McCandliss, B. (2015). Hemispheric specialization for visual words is shaped by attention to sublexical units during initial learning. Brain and Language, 145, 23–33.