シャドーイングのやり方。効果が出る人と出ない人は何が違うのか
シャドーイングを3ヶ月続けているのに、聞き取れるようになった気がしない。そこでやめてしまう人は少なくありません。ただ、やめる前に確かめてほしいことがあります。うまくいかない原因は、たいていシャドーイングそのものではなく、やり方にあるからです。
シャドーイングとは、流れてくる英語を止めずに、影のように追いかけて声に出す練習法です。同時通訳者の訓練として使われてきた方法で(Lambert, 1992)、日本では1990年代からリスニング指導への応用が研究されてきました。
目次
シャドーイングとは何か。音読やリピーティングとの違い
シャドーイングは他の練習と混合されがちです。まず整理しておきましょう。
| 練習法 | やること | 主に鍛えられるもの |
|---|---|---|
| 音読 | 文を見て、自分の速さで声に出す | 文字と音の結びつき |
| オーバーラッピング | 文を見ながら、音声にぴったり重ねて読む | 英語の速さとリズムに口を慣らす |
| リピーティング | 一文ごとに音声を止めて、聞いた文を再現する | 音の記憶と文構造の処理 |
| シャドーイング | 文を見ずに、止まらない音声を追いかける | 音声知覚の自動化、リズムとイントネーション |
シャドーイングの特徴は2つです。音声を止めないこと。文を見ないこと。一文ずつ止めて繰り返すのはリピーティング、文字を見ながら重ねて読むのはオーバーラッピングで、それぞれ別の練習です。どれも悪くありませんが、目的が異なります。
なぜシャドーイングでリスニングが伸びるのか
聞き取りの最中、頭の中では2つの作業が同時進行しています。それは、(1)音声を単語として認識する作業と (音の処理)、(2)認識した単語から意味を組み立てる作業です。英語に慣れていない方は、英語学習者の場合、両方の作業に意識が向きます。逆に、英語のリスニングの備わった方は、(1)の作業がほぼ無意識的(自動化)に完了します。音を無意識に処理できるため、(2)の作業に意識を回すことができるのです。英語のリスニングに慣れていない方は、英語の音を掴むだけで頭がいっぱいになり、意味まで手が回らなくなります。ところが、(1)を無意識にできないまま(2)の作業も熟層とすると、作業が難しるため良い練習に繋がりません。
シャドーイングが鍛えるのは、(1)の作業です。止まらない音声を追いかけるには、音だけに意識を集中する必要があります。通常より速い音を追うことで強制的に(2)の作業を抑制します。要するに(1)に精一杯であるため、(2)の作業に手が回らなくなるのです。したがって、この負荷を繰り返すうちに音の認識が自動化されます。(1)の自動化が進むと、空いた余力を意味の理解に回せるようになります。関西学院大学の門田修平が長年説明してきた仕組みで(門田, 2007; Kadota, 2019)、学習者の実感としては「英語が前よりゆっくり聞こえる」という形で現れます。
内容を先に理解しておくのは、シャドーイング中の頭に余裕がないからです。追いかけている間、意識は音を捉えることでほぼ埋まります(門田, 2007)。そこへ初めて見る単語が混じると、負担が一段と重くなり、うまく言えない不安まで加わります。Hamada(2014)は、この不安を取り除くだけでも認知的な負荷が下がると述べています。もうひとつ、先に内容を知っていると、次に来る語を予測しながら音を追えるようになります。音を捉える作業と、意味の側からの支えが、同時に働くわけです。実験では、内容を学んでから練習した学生だけが、リスニング理解テストで意味のある改善を示しました(Hamada, 2014)。
また、シャドーイングをする前に内容を先に理解しておきましょう。文を追いかけている間、意識は音を捉えることで精一杯です(門田, 2007)。そこへ初めて見る単語が混じると、負担が一段と重くなり、うまく言えない不安まで加わります。Hamada(2014)は、この不安を取り除くだけでも認知的な負荷が下がると述べています。更に、先に内容を知っていると、次に来る語を予測しながら音を追えるようになります。実験では、内容を学んでから練習した学生だけが、リスニング理解テストで意味のある改善を示しました(Hamada, 2014)。
もうひとつ、見落とされがちな働きがあります。聞き取りが苦手なうちは、わからない部分を知識と文脈からの推測で埋めながら聞いています。会話を乗り切る技術としては立派なのですが、練習の場では困った副作用が出ます。推測で埋めている限り、音を正確に聞き取る力そのものは鍛えられないのです。シャドーイングは、この文脈からの推測を阻みます。聞こえた音をそのまま再現しなければならない以上、推測でごまかす余地がありません。意識が意味の予測から音の処理へと引き戻されます。(Hamada, 2019)。
教室での検証も重ねられています。Hamada(2016)がまとめた研究では、シャドーイング訓練でリスニング理解の改善が確認され、しかも英語が得意な学習者より、苦手な学習者のほうが恩恵が大きいという結果でした。聞き取りに悩んでいる人にこそ向いた練習だということです。
シャドーイングで伸びるもの、伸びないもの
効果の範囲を正直に区切っておきましょう。ここを曖昧にしたまま始めると、あとで「効果がなかった」と感じる原因になります。
シャドーイングで伸びるのは、まず聞き取りです。それも、音を単語として掴む土台の部分が変わります。文全体のリズムやイントネーションが身につき、口も滑らかに回るようになります。英語らしい抑揚は単語単位の練習では身につかないので、文をまるごと追いかけるこの練習の得意分野です。
一方で、直接的に伸びないものもあります。例えば、会話力。シャドーイングには相手がいません。自分の言いたいことを組み立てる工程もありません。聞く土台を作る練習としては優秀でも、話す練習の代わりにはなりません。話す力そのものはアウトプットの練習で育てます。LとRのような音素レベルの発音も、直接は直りません。聞き分けられていない音は、真似のしようがないからです。知らない単語も同じで、何十回追いかけても知らないままです。
ランニングだけで運動能力のすべては上がらないのと同じで、ひとつの練習が育てられる場所は限られています。シャドーイングは万能薬ではなく、範囲の狭い練習です。
シャドーイングのやり方(7つの手順)
手順そのものは難しくありません。差がつくのは後半、録音から先です。
1. 教材を選ぶ
長さは30秒から1分。スクリプトを読んで9割わかり、2〜3回聞けば口が追いつきそうな速さのものにします。選び方の細かい基準は、次の章でまとめて扱います。
2. 内容を先に理解する
スクリプトを読み、知らない単語を潰してから始めます。Hamada(2014)の実験では、内容を先に学習してからシャドーイングした学生たちだけが、リスニング理解テストで統計的に意味のある改善を示しました。意味のわからない音をなぞる練習は、お経になります。
3. スクリプトを見ながら重ねる
いわゆるオーバーラッピングです。文字の助けを借りて、速さとリズムに口を慣らします。2〜3回で十分です。
4. スクリプトを閉じて追いかける
ここからが本番です。意識は音に置きます。全部は追えなくて構いません。落ちても止まらず、次の文から復帰してください。
5. 録音する
スマホのボイスメモで足ります。上達する人としない人の分かれ道は、実はこの手順です。
6. 手本と聞き比べる
自分の録音と元の音声を並べて聞き、崩れた文を3つまで選びます。音が落ちた、リズムが平らになった、母音を伸ばしすぎた。ずれの中身をひとことメモしておくと、次の回に効きます。
7. その文だけ繰り返し、最後に通す
選んだ文だけを取り出して、追いつけるまで繰り返します。仕上げに全体をもう一度通して、直した文が流れの中でも崩れないかを確かめます。

5から7が、この練習の心臓部です。弱点を見つけ、手本と照らし、直してもう一度やる。この輪が回っているシャドーイングは、デリバレート・プラクティス(意図的な練習)の条件をそのまま満たします。逆に、録音のないシャドーイングがなぜ伸びないのかも、あの記事の言葉で説明がつきます。輪のない反復は、どれだけ重ねても単純な反復のままだからです。
教材選びとレベルの目安
教材選びで練習の質の半分が決まります。基準は3つ。長さは30秒から1分。読めば9割わかる内容。2〜3回聞けば口が追いつきそうな速さ。10分の音源を最初から最後まで流す人がいますが、長い教材では弱点の特定ができません。短いものを深く、が原則です。
速すぎるときは、再生速度を0.8倍程度まで落としましょう。口が追いつくようになったら、元の速さに戻します。ただし0.7倍を下回ると、英語のリズムや音のつながりそのものが崩れて、実在しない英語を練習することになります。そこまで落としたくなったら、下げるのは速度ではなく範囲です。1文だけなら追える、から始めればいいのです。
効果が出ない4つの原因
「シャドーイングは効果がない」と感じている人の練習には、共通のつまずきがあります。当てはまるものがないか、確かめてみてください。
原因1. 教材が難しすぎる
3回聞いても口がまったく追いつかないなら、その教材は今のあなたには速すぎるか、難しすぎます。頑張りが足りないのではありません。負荷の設定を間違えているだけです。レベルを下げるか、速度を落とすか、範囲を1文に絞ってください。
原因2. 口だけが動いている
再生が終わった直後に、内容を何ひとつ思い出せない。これが目印です。音の表面をなぞるだけの練習は、続けても単純な反復のままで、肝心の負荷がかかっていません。内容理解の手順を飛ばしていないか、意識がよそに行っていないかを疑ってください。疲れて集中が切れているなら、その日はやめて構いません。
原因3. 録音していない
自分の英語のずれは、話している本人にはほぼ聞こえません。録音なしのシャドーイングは、鏡を見ないでフォームを直そうとする素振りに似ています。毎回でなくてもいいので、週に1度は録音して手本と聞き比べてください。
原因4. 毎回頭から通すだけ
練習中に躓く場所は、たいてい同じところです。そこを素通りして頭から最後まで流す練習は、できる部分の確認に時間を使い、できない部分には触れていません。難しかった箇所を取り出して、そこを繰り返しましょう。
速度調整と録音の道具
特別な道具は要りません。YouTubeもポッドキャストアプリも再生速度の変更は標準でついていますし、録音はスマホのボイスメモで十分です。
教材を自分で作りたい人には、テキスト読み上げ(TTS)という手もあります。英文を貼り付ければ音声にしてくれるので、興味のある文章をそのまま教材にでき、速度も繰り返しも自由です。選ぶ条件はひとつだけ。人間らしい自然な音声であることです。棒読みの機械音声は、真似する手本になりません。最近は発音のずれを指摘してくれるAIアプリも増えましたが、まずは録音と聞き比べで十分です。道具の性能より、手順6と7の輪が回っているかどうかのほうが、はるかに効きます。
よくある質問
毎日どのくらいやればいいですか?
1回10分から15分で十分です。シャドーイングは口も頭も同時に使うので、見た目より消耗します。集中が切れたまま続けても、口だけが動く時間が増えるだけです。短く、毎日か1日おき。それで足ります。この疲れの正体については、なぜ英語を使うと疲れるのかという記事で書きました。
どのくらいで効果を感じますか?
個人差はありますが、研究では数週間から2ヶ月ほどの訓練でリスニング理解の改善が確認されています。最初に変わるのは聞こえ方です。今まで団子だった音の列が、単語の粒に分かれて聞こえる瞬間が来ます。話す方の変化はその後です。この順番を知らないと、先に来るはずのない効果を待って、手前でやめてしまいます。
初心者ですが、いきなり始めてもいいですか?
教材しだいです。スクリプトを読んで9割わかる素材なら、初心者でも始められます。読んでもわからない素材は、シャドーイング以前の問題です。その場合は、音読とオーバーラッピングで文字と音をつなぐところから始めてください。遠回りに見えて、そのほうが早く着きます。
オーバーラッピングとどう違いますか?
文を見るかどうかです。オーバーラッピングは文字を見ながら音声に重ねて読むので、目が助けてくれます。シャドーイングは耳だけが頼りです。負荷が一段重く、そのぶん鍛えられる場所も違います。オーバーラッピングで口が回るようになってから、シャドーイングに移る、この順番がいちばん無理がありません。
発音は良くなりますか?
文全体のリズムやイントネーションは良くなります。抑揚は文の流れの中にしかないもので、文をまるごと追いかけるシャドーイングと相性がいいのです。ただ、LとRのような音素レベルの発音は、聞き分けられない音を真似できない以上、直接は直りません。そこは発音記号と口の形を扱う、別の練習の仕事です。順番の問題もあります。発音を磨く目的のシャドーイングでは、意識を発音そのものに割く必要があり、聞き取りに余裕がないうちはその余力が残りません。まずリスニングのためのシャドーイングで土台を作り、発音用に使うのはその後です(Hamada, 2019)。
子どもにもシャドーイングは効果がありますか?
年齢によります。中学生なら、この記事のやり方がそのまま使えます。学校の音読で文字と音の土台ができていますし、録音を聞き比べて直す作業にも十分ついてこられます。高校入試のリスニング対策としても相性のいい練習です。小学生は半分だけです。聞こえた音を真似ること自体はむしろ大人より得意なので、短いフレーズのまねっこや歌・チャンツの形なら喜んでやります。ただ、自分の音のずれを分析する工程にはまだ無理があるので、そこは大人が「ここだけもう一回やってみようか」と、輪の代わりを回してあげてください。幼児に練習という形は要りません。歌や絵本のまねっこ読みが、同じ働きをします。
おわりに
シャドーイングは、国内外の研究の裏付けがある数少ない練習法のひとつです。それでも成果が出ないとしたら、疑うべきは方法ではなく設計のほうです。教材の負荷、内容の理解、そして録音の輪。この3つを整えるだけで、同じ15分がまるで別の練習になります。今日の1回から、録音を足してみてください。
参考文献
- 門田修平(2007)『シャドーイングと音読の科学』コスモピア
- 門田修平(2012)『シャドーイング・音読と英語コミュニケーションの科学』コスモピア
- Kadota, S. (2019). Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition: Connecting Inputs and Outputs. Routledge.
- Hamada, Y. (2014). The effectiveness of pre- and post-shadowing in improving listening comprehension skills. The Language Teacher, 38(1), 3–10.
- Hamada, Y. (2016). Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research, 20(1), 35–52.
- Hamada, Y. (2019). Shadowing: What is it? How to use it. Where will it go? RELC Journal, 50(3), 386–393.
- Lambert, S. (1992). Shadowing. Meta, 37(2), 263–273.