(認知症 英語) 第二言語習得の生涯にわたる効果

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歳を重ねても頭を使い続けることが認知力の維持や向上に欠かせません。そして、頭を使い続けることが認知症の予防の一つになりえます。言語学習を通して頭を使うことは、生涯を通して実践できる活動の一つです。しかし、なぜ言語学習のみならず、日常的に二言語以上を使用することが認知力の維持や向上に貢献するのでしょうか。近年、第二言語の習得が認知機能の低下防止にどのような影響を与えるかについて多くの研究が行われています。特に、第二言語を学ぶことが認知機能を高め、その低下を遅らせる効果があることが示されています。以下では、科学的な視点から外国語と認知症の関係を紹介します。

免責事項:ここで紹介されている情報は、一般的な知識提供を目的としており、医療専門家のアドバイスや診断を代替するものではありません。具体的な健康問題や治療に関する質問や懸念がある場合は、必ず専門の医療提供者に相談してください。

用語:

認知症 英語で?

認知症は英語で 『Dementia』と言います。

例文: My grandmother was diagnosed with dementia, and she often forgets recent events and has difficulty recognizing family members.
(私の祖母は認知症と診断され、最近の出来事をよく忘れたり、家族の顔を認識するのが難しくなっています。)

認知症とアルツハイマー病 (Alzheimer’s disease)は関連していますが、異なる用語です。

認知症は、日常生活に支障をきたすほどの認知機能の低下を表す一般的な用語です。記憶、思考、社会的能力に影響を及ぼすさまざまな症状を含みます。

アルツハイマー病は、認知症の最も一般的な原因で、認知症の症例の60~80%を占めています。これは脳細胞が徐々に劣化することで特徴付けられ、記憶喪失、混乱、行動や思考の変化を引き起こします。

研究のメタ分析
(認知症と第二言語)

科学的主張の信憑性を測るときには個別の研究を読む前に、メタ分析を読むことが重要です。メタ分析は、多くの個別研究の結果を統計的に統合し、全体的な傾向や効果を明らかにするための方法論です。これにより、各研究のバラつきを減少させ、より信頼性の高い結論を導き出すことができます。バイリンガリズムの認知的の関係を読み解きましょう。

バイリンガリズムの認知的な利点については、多くのメタ分析が実施されています。Adesope et al. (2010) のメタ分析では、バイリンガルの人々がモノリンガルと比べて、メタ言語的認識、注意制御、および抽象的推論において優れていることが示されました。これらの認知的な利点は、言語を切り替えたり管理したりする必要性から、実行機能が強化されることによると考えられています。

また、Ware, Kirkovski, and Lum(2020)のメタ分析では、170の研究を分析し、バイリンガルの利点がタスクや年齢によって異なることを発見しました。特に、50歳以上の高齢者ではその利点が顕著であり、バイリンガリズムが加齢による認知機能の低下を緩和する可能性が示唆されました。

一方で、Mukadam, Sommerlad, and Livingston(2017)のメタ分析では、バイリンガリズムが認知症の予防に与える影響について、教育などの要因を調整した場合には顕著な保護効果が見られないと結論付けています。このメタ分析は13件の研究(5件の前向き研究と8件の後向き研究)を対象に行われました。前向き研究のうち4件の解析結果は、モノリンガルとバイリンガルの間に差がないことを示しましたが、後向き研究の7件では、バイリンガルが認知症の症状発現を4〜5年遅らせることが示されました。著者らは、参加者の文化的背景や教育水準が結果に影響を与える可能性があると考え、後向き研究の結果を無視し、前向き研究の結果を重視しました。

しかし、Woumans et al.(2017)によると、それらの後向き研究の多くがこれらの変数をコントロールしてもバイリンガリズムのポジティブな効果を見つけたことが指摘されています。さらに、前向き研究のメタ分析は、重要な2つの報告結果を欠いていると主張しています。したがって、文献全体を見ると、バイリンガリズムが認知機能低下および認知症の発展に対して有意な影響を持つという実質的な証拠が提供されていると結論付けられています​。

具体的な研究
(認知症と第二言語)

第二言語の習得は、脳の構造的な変化,柔軟性と適応力を高めます。第二言語の学習過程で、新しい音や文法、語彙を習得する際に、新しい神経回路が形成されます【Kuhl et al., 2008】。このような回路の形成と強化は、脳の柔軟性を高め、他の認知機能にも好影響を与えるとされています。Abutalebi et al.(2015)や Antoniou et al.(2013)の研究によると、バイリンガルな人はモノリンガルの人に比べ、前頭前皮質や頭頂葉の灰白質の密度が高く、これにより情報の処理速度や記憶力が向上することが報告されています。

さらに、Bialystok et al.(2007)の研究によると、バイリンガルの高齢者はモノリンガルの高齢者に比べてアルツハイマー病の発症が約4〜5年遅れることが示されています。この現象は、脳が損傷や老化による影響を補償する能力の増加によるものと考えられており、言語の切り替える作業(例えば、英語から日本語)が一つの理由とされています【Bialystok et al., 2012】。

日常的に二言語以上を使用することが脳の健康維持に貢献すると言われています。言語切り替えの頻度が高いほど、実行機能や作業記憶が強化され、前頭前皮質と頭頂葉の活動が活発になることが示されています【Craik et al., 2010】。これらの部分は、計画、問題解決、マルチ作業などの高度な認知機能に関与しています。

バイリンガルとモノリンガルのアルツハイマー病患者の脳内エネルギー消費の違いを調査した研究もあります。この研究では、バイリンガルの患者が一言語のみを話す患者と比べて、脳内でのエネルギー消費パターンが異なることが示されました。バイリンガルの患者は、脳の他の領域でより多くのエネルギーを使用し、より高い脳の連結性を示しました【Schweizer et al., 2012】。この現象は、バイリンガリズムが脳の柔軟性と適応力を高めるためと考えられています。

また、Perani et al.(2017)の研究では、バイリンガルな人がアルツハイマー病に関連する脳の萎縮に対して抵抗力を示すことが報告されています。この研究では、バイリンガルの患者は、言語切り替えや複雑な文法の理解を行う際に、脳の複数の領域を活発に使用することが確認されました【Perani et al., 2017】。

最後に、Woumans et al. (2015)の研究によると、バイリンガルな人が認知作業をする際に、モノリンガルな人よりも効率的に脳を使用することが示されています。具体的には、バイリンガルな人は作業の切り替えや注意制御において優れたパフォーマンスを発揮し、これが脳内のエネルギー消費の最適化していると考えられます【Woumans et al., 2015】。

これらの研究結果は、第二言語の学習が認知機能の維持と向上に大きく貢献することを示しており、特に中高年期の生涯学習として非常に有益であることを強調しています。言語学習は、認知症のリスクを軽減し、脳の健康を維持するための効果的な方法の一つであるかもしれません。

まとめ

外国語を学ぶたいと言う気持ちが一番重要ですが、外国語学習は様々な利益があります。その一つが脳の健康を保つためのトレーニングです。外国語はコミュニケーションとしての役割だけでなく、脳の健康を維持し、認知症を予防するための強力な手段です。生涯にわたって新しい言語を学ぶことは、脳に対する一種のトレーニングとなります。

第二言語の学習は、年齢に関係なく始めることができます。中高年になってからでも、脳は新しい言語の学習に適応する能力を持っています。Park et al. (2014)の研究では、中高年の個人が新しい言語を学ぶことで、認知機能の向上が見られ、特に注意力や記憶力の改善が報告されています。Bak et al. (2016)の研究によると、バイリンガルの高齢者は、モノリンガルの高齢者に比べて認知機能の低下が遅く、アルツハイマー病の発症リスクも低いことが示されています。

日常生活に第二言語の学習を自然に取り入れることができます。例えば、日常的な会話、読書や映画鑑賞などを通じて、持続的に第二言語と接することが重要です(英語学習のモチベーション維持)。これにより、脳が常に新しい刺激を受け取り、認知機能が活性化されるため、全体的な脳の健康が向上します。第二言語の学習は、個人の文化的視野を広げ、脳の健康と認知機能の向上のための重要な要素です。もちろん、若い頃から始めることが理想的ですが、中高年になってからでも効果は十分に期待できます。今後の研究がさらに進むことで、具体的なメカニズムや効果的な学習方法が明らかになり、より多くの人々が第二言語学習の恩恵を受けることに期待しています。

引用文献: