アクティブラーニングとは、学習者が中心となり、能動的に問題解決や批評的思考を行う学習方法です。この記事では、アクティブラーニングがどのようにスキルセットの育成や知識の定着に役立つのかを解説し、具体的なアクティビティや適切な難易度、多様な手法についても取り上げます。また、エリック・マズール教授のピア・インストラクションを用いたアクティブラーニングの動画も紹介します。
目次
アクティブラーニングってどういう意味?
アクティブラーニングの本質と多面性
アクティブラーニングは、いくつかの研究によって定義されていますが、その根底には学習者が中心で能動的な学習であるという点が共通しています。この方法は、単に情報を受け取るのではなく、自分自身で問題解決や批評的思考を行い、そのプロセスを通じて学びます。
アクティブ・ラーニングとスキルセット
日本や欧州諸国で広く導入されているアクティブラーニングは、コミュニケーション、チームワーク、論理的思考力の育成が主な目的です。グローバル化とIT技術の進展により、独自の思考を持ち、多文化的な背景を持つ人々と効果的にコミュニケーションを取る能力が求められています。
知識の定着
しかし、アクティブラーニングは単にスキルの習得だけを目的としているわけではありません。研究(E. Bjork and R. Bjork 2011など)が示すように、考えたり、振り返ったりすることが記憶に定着しやすくする効果があります。問題解決や批評的思考は、頭を活発に使わせ、それがまた学習内容の記憶に役立ちます。また、既存の知識を新しい知識や経験に関連づけることも記憶のためになります。
具体的なアクティビティ
数学の問題解決、ディスカッション、教える活動などは明らかなアクティブラーニングの例です。英語学習では、実際に文章を書いたり、意見を述べたりすることが能動的な学習につながります。
適切な難易度
難易度が高すぎると逆効果になる可能性もあります。理解が必要であり、それには適度な難易度が求められます。したがって、年齢、レベル、目的に応じて、適切なアクティビティが必要です。
多様な手法と焦点
アクティブラーニングには様々な手法があります。一部はコミュニケーションとチームワークに焦点を当て、一方で論理的思考を強調するものもあります。知識の定着に焦点を当てた活動(クイズなど)も重要です。
セクションのまとめ
総じて、アクティブラーニングは一口に言っても多種多様な手法と目的があり、それぞれが異なる教育的ニーズに応えています。最も重要なのは、学習者が能動的に参加し、そのプロセスを通じて多面的に成長することです。それが、現代社会において求められる多様なスキルセットを形成する基盤となります。
ピア・インストラクションを用いたアクティブ・ラーニング
この動画では、エリック・マズール教授がピア・インストラクションを用いたアクティブ・ラーニングについて解説しています。学生同士の教え合いによって学習効果が飛躍的に向上することを実証し、従来の講義形式の教育を見直す重要性を強調しています。学びの質を高めるための革新的な方法を知りたい方におすすめの内容です。
動画のトランスクリプト(和訳)
1984年、私はハーバード大学で物理学の助教授として教え始めました。始めた頃、自分がどう教えるかを考えることはありませんでした。それは新しいことを始める際に最初に考えるべきことなのに、振り返ってみると奇妙に思えます。私にとって講義をすることは当然のことでした。というのも、私自身が教授の講義を聴いて物理を学んだので、学生たちも同じように学ぶだろうと考えていたからです。私に与えられたのは、同僚が誰も教えたがらなかったコース、つまり医学部予備生向けの物理の授業でした。これらの学生は物理を学びたくなかったし、私の教室に入る前からすでに嫌っていましたが、学ばなければならなかったのです。
このコースを教えた多くの同僚は学生から低評価を受けましたが、私はそうではありませんでした。私は5段階評価で4.2から4.5の高評価を受けました。これらの学生は物理学者ではありませんでしたが、試験で私が解くのに苦労するような難しい問題を出すことができました。これにより、私は世界最高の物理の教師だと思うようになりました。しかし、これは長年にわたって続いた幻想でした。私は教室でロケット推進のカートに乗ったり、大きな振り子のボールにぶら下がったりするような精巧なデモンストレーションを行い、ハリウッドのようなショーを作り上げました。学生たちは試験で良い成績を収め、私は高評価を受けましたが、すべては幻想に過ぎませんでした。
約7年後、私は学生が入門物理コースでほとんど何も学ばないという記事を読みました。その記事は、アメリカ南西部の何千人もの学生のデータを提供しており、学生の基礎的な物理概念の理解がコースを受けた後でもほとんど改善しなかったことを示していました。私は懐疑的になり、自分の学生にも同様の質問でテストすることにしました。ある学生が、「教授の教えに基づいて答えるのか、それとも普段の考え方で答えるのか」と尋ねてきて、私は混乱しました。テストの結果、私の学生の理解度は偶然の範囲を少し上回る程度であり、自分が効果的な教師だという幻想が打ち砕かれました。
私は学生が問題を解くためのレシピを暗記しているだけで、基礎的な原理を理解していないことに気付きました。この気付きは私を不安にさせ、何をすべきか分からなくなりましたが、偶然の出来事がすべてを変えました。テストの成績が悪かった後、学生たちは特別なセッションを要請し、問題の復習を行うことになりました。トラックと車の衝突に関する問題を説明したとき、詳細に説明しても学生たちは依然として混乱していました。絶望の瞬間に、私は学生たちに互いに議論するように言いました。驚いたことに、わずか2分で彼らは問題を解決しました。これは私が10分かけてもできなかったことでした。
これにより、学生同士が教え合う方が効果的であることを理解しました。正しい答えを持っているメアリーという学生が、混乱しているジョンに説明できたのは、彼女が最近それを学び、その困難さを理解していたからです。この洞察は知識の呪いと呼ばれ、一度何かを理解すると、最初の困難さを忘れてしまうことを示しています。これを理解した私は、教え方を完全に変えました。講義をやめ、ファシリテーターになりました。学生には事前に読む資料を与え、授業時間を質問と議論に費やしました。この方法はピアインストラクションと呼ばれ、学生が互いに教え合い、私はその横でガイドするというものです。
この方法を用いることで、学習効果は3倍にもなり得ました。ピアインストラクションはさまざまな分野で採用されており、教育の鍵は学生をアクティブな学習と意味の理解に引き込むことだと示しています。情報の伝達が教室の外で行われ、意味の理解が教室内で行われるこの反転授業のアプローチは、クリティカルシンキングを必要とするあらゆる分野に適用できます。教育は情報の伝達とその意味の理解を含むものであり、伝統的なアプローチを反転させることで、さまざまな分野で学習体験を向上させることができます。
動画のトランスクリプト(英語)
I started teaching at Harvard in 1984 as an assistant professor of physics. When I began, I never asked myself how I was going to teach, which in hindsight seems strange since that should be the first question one asks when doing something new. It was clear to me that I would lecture, as I had learned physics by listening to my professors’ lectures, so I assumed my students would learn the same way. I was asked to teach a course that none of my colleagues wanted to teach: physics for pre-medical students. These students didn’t want to learn physics and already hated it before entering my classroom, but they had to learn it.
Most of my colleagues who taught this course received poor ratings from these students, but that didn’t happen to me. I received high ratings, typically 4.2 to 4.5 on a five-point scale. Even though these students were not physicists, I could give them difficult problems that even I might struggle with on an exam. This led me to believe I was the world’s best physics teacher. However, this was an illusion that persisted for many years. I performed elaborate demonstrations in class, such as riding a rocket-propelled cart and swinging a large pendulum ball, which created a Hollywood-like show. My students did well on exams, and I had high ratings, but it was all an illusion.
After about seven years, I read an article claiming that students learn little or nothing in their introductory physics courses. The article provided data from thousands of students in the Southwest United States, showing that students’ understanding of basic physics concepts did not improve significantly after taking the course. Skeptical, I decided to test my own students with similar questions. One student asked whether to answer the questions based on my teaching or their usual way of thinking, which confused me. The results of the test revealed that my students’ understanding was barely better than chance, shattering my illusion of being an effective teacher.
I discovered that my students were memorizing recipes for solving problems rather than understanding the underlying principles. This realization left me unhappy and unsure of what to do until a serendipitous event changed everything. After a poor test performance, my students requested a special session to review the questions. When I explained a problem involving a truck and a car collision, they remained confused despite my detailed explanation. In a moment of despair, I asked them to discuss it among themselves. To my surprise, in just two minutes, they figured it out, something I had failed to achieve in ten minutes.
This led me to understand that students could teach each other more effectively than I could. Mary, a student with the correct answer, could explain it to John, who was confused, because she had recently learned it and understood the difficulties. This insight, known as the curse of knowledge, highlighted that once you understand something, you forget the initial challenges. Realizing this, I changed my teaching approach completely. I stopped lecturing and became a facilitator. I gave students materials to read before class and used class time for questioning and discussion. This method, called peer instruction, involved students teaching each other while I guided them from the side.
Using this method, I found that learning gains could triple. Peer instruction has been adopted in various disciplines, demonstrating that the key to education is engaging students in active learning and sense-making. This flipped classroom approach, where information transfer happens outside the classroom, and sense-making occurs inside, can be applied to any field requiring critical thinking. Education involves transferring information and making sense of it, and by flipping the traditional approach, we can enhance the learning experience across disciplines.
パッシブ・ラーニングとは
パッシブ・ラーニングとその特性
アクティブラーニングと対照的な教育手法としてパッシブラーニングがあります。パッシブラーニングは、講師や指導者が中心となる形式で、学習者は受動的な役割を担います。この方式では、講師が一方的に情報を提供し、学習者はそれを受け取るだけです。講義、プレゼンテーション、ビデオ視聴などが典型的な形態としてあげられます。
講師の役割と力量
アクティブな教授法は、確かにパッシブなものよりも複雑で難しい面があります。これは、クラスを運営する講師の力量が非常に重要になるからです。講師は単に情報を提供するだけでなく、学習者の参加を促し、各個人のニーズに対応するための多様な教材や活動を設計・実施する必要があります。
アクティブラーニングのクラスでは、講師はより多くの準備と対話を求められるでしょう。例えば、小グループでのディスカッションを活発にするためには、事前に質問や議論のポイントを練っておく必要があります。また、学習者が自主的に考えたり行動する時間を確保しながら、そのプロセスを適切にガイドするスキルも求められます。
アクティブとパッシブの組み合わせの重要性
学習効果と研究結果
確かに、過去30年にわたって多くの研究が示しているように、アクティブラーニングは一般にパッシブラーニングよりも効果的な学習手法とされています(Brama 2016)。しかし、それがすべての状況や全ての学習者に適しているわけではありません。パッシブラーニングは特に、新しい情報を効率的に吸収する際に役立ちます。講義やプレゼンテーションは、専門家が厳選した情報を簡潔かつ整理された形で提供できる場であり、初めて接する内容に対して基本的な理解を得るのに有用です。
エネルギーと持続可能性
アクティブラーニングは確かに多くのエネルギーを消費する手法です。問題解決、ディスカッション、プロジェクトなど、精神的なエネルギーを大量に使います。これに対して、パッシブラーニングは比較的エネルギーの消費が少ないため、1日の中でバランス良く学習活動を行うには、両者を組み合わせるのが最も効率的です。
具体的な例:英語学習
英語学習においても、このバランスが非常に重要です。例えば、数時間にわたって積極的な会話練習や文法のエクササイズをした後に、多読(エクステンシブ・リーディング)を行うことで、総合的なスキルを高めることができます。アクティブな学習で培った知識やスキルを、パッシブな学習で補完と定着を促すのです。
プライミング効果
パッシブな学習方法でも、授業やレッスンの前に授業内容を一通り目を通すだけで、プライミング効果が得られます。このプライミング効果により、学習者は新しい情報をより効率的に処理し、記憶に定着させやすくなるとされています。
セクションのまとめ
要するに、アクティブラーニングとパッシブラーニングにはそれぞれ独自の利点と制限があります。効率的な学習を目指すには、これらを適切に組み合わせることが重要です。特にエネルギー管理や総合的なスキルの向上を考慮すると、バランスの取れた学習方法が最も実用的であると言えるでしょう。
読書はアクティブ?
アクティブラーニングと読書
読書は、一般的にはパッシブな活動とされがちですが、それは読書のやり方によります。例えば、読書を単なる情報の摂取とするのではなく、ノートを取りながら主要なポイントや引用を記録する場合、そのプロセスはアクティブラーニングになり得ます。さらに、章ごとやセクションごとに立ち止まり、読んだ内容を振り返ることで、理解を深め、記憶に定着させることが可能です。このようなアプローチは特に学術的なテキストや専門書において有用です。
また、読了後にその内容を要約したり、誰かにその本の主題や教訓を説明することも、アクティブな学習の一形態です。このプロセスでは、読んだ情報を自分自身の言葉で再構築する必要があり、それによって理解が一層深まります。
パッシブラーニングと読書
逆に、単に文字を目で追っていくだけの読書は、パッシブな学習方法と言えます。これは特に、多読やエンターテインメントとしての読書によく見られます。ただし、そのような読書でも、その後で感想を書いたり、話し合ったりすることでアクティブな要素を加えることができます。さらに、読んだ本に基づいてロールプレイングをしてストーリーを再現したり、関連するトピックでプロジェクトを作成するなどもできます。
セクションのまとめ
読書は、その取り組み方によってはアクティブラーニングにもパッシブラーニングにもなり得ます。目的や状況、そして何を達成したいのかによって、読書のスタイルを選ぶことが重要です。アクティブとパッシブの要素を適切に組み合わせることで、より効率的かつ深い理解を得ることが可能です。
英語初級者も英語でアクティブな学習ができますか?
基本レベルでのアクティブラーニング
英語の経験が少ない方や小さいお子さんでも、アクティブな学習は十分可能です。英語の初級者は、複雑なディスカッションが難しいかもしれませんが、それはアクティブラーニングが不可能であるというわけではありません。たとえば、簡単な単語やフレーズを使用してコミュニケーションを取る試み、またはジェスチャーと単語を組み合わせて意味を伝えるよう努力することも、能動的な学習の一環です。
好奇心:質問と調査
初級者でも、わからない単語や表現に遭遇した場合、それを調べたりクラスで質問することはアクティブな学習といえます。このような疑問を持ち、それを解決するプロセス自体が、言語習得において非常に重要なステップです。
年齢とレベルに応じた進化
年齢と英語のレベルが上がるにつれて、アクティブラーニングの方法も進化します。初級レベルでは単語や短いフレーズに焦点を当てるかもしれませんが、中級や上級になると、複雑なテキストの分析やディスカッションが可能になります。
適度なチャレンジ
アクティブラーニングには、適度なチャレンジが必要です。ただ単に簡単な活動を繰り返すのではなく、少しずつ難易度を上げていくことで、グローバル人として必要なスキルと英語の知識を同時に深めることができます。
セクションのまとめ
英語の初級者でも、状況や目的に応じてアクティブラーニングは十分に実施できます。言語のレベルや年齢によっては方法が限られるかもしれませんが、その制限内で工夫を凝らすことによって、効果的な学習が可能です。そして、そのようなアクティブな取り組みが、長期的には高度なコミュニケーション能力と言語スキルを培う基盤となります。
参考文献:
- Cousera 東京大学
- Bjork, Elizabeth L., and Robert A. Bjork. “Making things hard on yourself, but in a good way: Creating desirable difficulties to enhance learning.” Psychology and the real world: Essays illustrating fundamental contributions to society 2.59-68 (2011).
- Brame, Cynthia. “Active learning.” Vanderbilt University Center for Teaching (2016).
- Bonwell, Charles C., and James A. Eison. “Active Learning: Creating Excitement in the Classroom. ERIC Digest.” (1991).
- Felder, Richard M. & Brent, Rebecca (2009) Active Learning: An introduction. ASQ Higher Education Brief, 2(4)
- Prince, Michael. “Does active learning work? A review of the research.” Journal of engineering education 93, no. 3 (2004): 223-231.
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