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はじめに: 丸覚えの限界
英語学習において、丸覚えしたフレーズを使うことは、初歩的な段階では有効的です。例えば、日常会話や旅行先での簡単なコミュニケーションには、よく使われるフレーズを覚えておくことで、スムーズに会話を進めることができます。これにより、自信を持って英語を使い始めることができます。しかし、丸覚えは学習の一部で、長期的なスキル向上には限界があります。
英語学習において、自分の言葉で文章を組み立てる能力は、複雑な会話や多様な状況に対応するために重要です。しかし、その前提として、自分の言葉で文章を組み立てようとする好奇心が言語学習において不可欠です。言語学習は単なる暗記ではなく、理解と応用が求められる過程です。好奇心はこのプロセスを支える重要な要素です。新しい単語や表現に出会ったとき、「どうやって使うのだろう?」「どんな場面で使えるのだろう?」という疑問が湧き上がります。この探求心が、学習を深める原動力となります。
Loewenstein (1994) によると、好奇心は新しい情報の探求を促し、学習過程において重要な動機付けとなるとされています。また、von Stumm et al. (2011) のメタ分析は、好奇心が学術成績(言語学習を含む)における第三の支柱であることを示しています。
この記事では、好奇心を原動力にした学習法を2つ紹介します。
自分の言葉で文章を組み立てよう
まず、自分が興味を持っているテーマを見つけます。関心がある分野について調べることで、学習が継続しやすくなります。それについて英語でどう表現するのか考えることで、学習が進みやすくなります。例えば、好きな映画や趣味、最新のニュースなど、興味のあるものを英語で表現する練習をしたり、気になった言葉などをノートに書き込んで、後で英訳を調べましょう。できる限り、興味のあるテーマに学習を限定し、英語で知りたいことや伝えたいことを考えましょう。
Swain(1985)の出力仮説によると、言語を実際に使って話したり書いたりすることは効果的な学習方法とされています。言語をアクティブに使うことで、まだ理解していない部分や、表現が足りない部分が明らかになります。つまり、実際に言葉を使うことで、自分の言語知識の限界を知り、それを超えるために何が必要かを学ぶことができるのです。この理論は、言語学習において「自分の言葉で表現する」ことの重要性を強調しています。しかし、インプットもアウトプットも大切なので、両方しましょう。
通常、英語で伝えたい内容が自然に日本語で表れます。しかし、英語でどう表現するか、はっきりとわからない場合がよくあります。辞書や翻訳機を使う前にできる限りの内容で、英語でどう表現するかを考えましょう。表現が固まった後、辞書や翻訳機を使って、単語や文法などが正しいか確かめましょう。この過程を繰り返すことで、英語の力が身につきます。伝えたいことを元に英語を組み立てるので、実用的であり、現実の生活の課題(タスク)から生まれた練習になります。Keck (2006) のタスクを使用した言語学習の効果を調査したメタ分析によると、タスクを通じた活動は学習者が新しい語彙や文法を実用する機会を提供し、それによって言語の理解と使用能力が向上することが示されました。つまり、実際のコミュニケーションの状況に近い形で言語を使用することが、効果的な学習方法であるとされています。
タスクとは?
タスクとは、特定の目的を達成するために行われる活動や作業のことを指します。言語学習の文脈では、タスクは学習者が実際に言語を使用して具体的な成果を出すための課題です。例えば、レストランでの食事の注文、友達との計画立て、写真の説明、物語の作成など、日常生活の中で遭遇するような実践的な状況を模倣した活動がタスクにあたります。
例えば、「昨日友達と映画を見に行った」と言いたい場合、辞書や翻訳機を使う前に、自分の力で表現してください。
「I go see movie with my friend yesterday.」と表現したとします。その後、辞書や翻訳機を使って、単語や文法などが正しいか確かめます。
すると、「I went to see a movie with my friend yesterday」という表現が正しいことに気が付きます。
更に追求すると、なぜ間違っていたか学べます。
以下が間違えの説明です。
- 時制の間違い: “go” は現在形ですが、この文は過去の出来事を表しているため、適切な時制は過去形です。正しくは “went” を使用すべきです。
- 不定冠詞の不足: 一般的に可算名詞の単数形の前には冠詞(a, an, the)が必要です。”movie” は可算名詞なので、”a movie” とするのが正しいです。
- 動詞の形: 一つの文で基本形の動詞を連続して使用することは一般的ではありません。”went see” のような表現は話し言葉で見られることがありますが、より正式な表現では “went to see” のように前置詞 “to” を用いて動詞を繋げるのが自然です。
しかし、この説明も深掘りする必要はありません。「そういえば、時制が違うな」「数えるものが一つだと a, an, the などがいるんだな」「went seeって感覚的に違うんだな」と気づくだけで十分です。特に初級・中級者は細かい英文法を深く追求する必要はなく、英語の感覚を養うことを優先しましょう。興味のある方は以下の動詞の形を読んでみてください。
動詞の形 – 動詞の隣り合わせパターン
- 補助動詞 + 主動詞:
- 例: “She is going to the store.”
- 説明: 「is」は現在進行形を示す補助動詞で、「going」は主動詞です。
- 主動詞 + 不定詞:
- 例: “He decided to run a marathon.”
- 説明: 「decided」は主動詞で、「to run」は不定詞形で、決定した行動を示しています。
- 主動詞 + 動名詞:
- 例: “I like swimming.”
- 説明: 「like」は主動詞で、「swimming」は動名詞(動詞の形が名詞として機能している)で、好きな活動を指しています。
- 連続動詞(標準英語ではあまり一般的ではなく、他の方言や言語でより一般的です)
- 例: “Come see what I bought.”
- 説明: 「Come」および「see」は連続して行われる二つの行動で、日常会話や非公式の英語の会話でよく使用されます。
実例:私は現在スペイン語を学んでいます。グアテマラに行くことになったのですが、グアテマラには狂犬病が多いことを知りました。犬に遭遇した時に現地の人にどんな質問をしようか考えた結果。こんな文を自力でつくってみました。『¿Eso perro tiene gripe? (あの犬は病気ですか。)』 スペイン語なので詳しく解説しませんが、答え合わせをすると、『¿Ese perro está enfermo?』 だということを学びました。
自分の言葉で表現を試みた後に辞書や翻訳機を使って修正する学習法を紹介しました。このような練習を通じて、間違いから学び、次第に自然な英語表現に近づいていくことができます。また、すぐに練習する時間が無くても、伝えたい内容や気になったことをスマホなどに書き留め、後で練習することで効率的に学習を進めることができます。こうした積み重ねが、実際の会話や文章作成において自信を持って英語を使える力を育てます。しかし、あくまで一つの学習法です。英語学習には様々なアプローチがありますので、自分の目標に合わせて、最適な方法を取り入れると良いでしょう。継続的な努力と工夫が、最終的には英語力向上に繋がります。
また、間違いを気にせずに試行錯誤を楽しみましょう。自分の言葉で文章を組み立てる際に、間違いや不自然な表現が出てきます。しかし、試行錯誤は学びの機会です。完璧を求めると、一歩を踏み出すことを恐れてしまい、創造性を失うことにもなります。大切なのは、その過程で得られる経験や気づきを大切にすることです。間違いを通して、どの部分が難しく、どこを改善するべきかが明確になります。他人の評価を過度に気にすることなく、自分自身の言葉で表現することの楽しさを見出すことも大切です。
ネイティブの表現を参考にする – 映画やシャドーイング
英語の映画やドラマを観る際に、英語の字幕で見ることをおすすめします。これにより、リスニングと読解力を同時に鍛えることができます。そして、見覚えがある単語やフレーズに気づいたら、その都度チェックしてみましょう。例えば、「こういう意味だったかな」といった感覚で自己クイズを行い、オンライン辞書・翻訳(例えば、DeepLのアプリ)などで答え合わせをすることで、より理解することができます。気になったフレーズや表現をメモしておくと良いでしょう。後で振り返ることで、記憶が定着しやすくなります。さらに、特定のシーンやキャラクターの台詞を繰り返し視聴し、その表現を口に出して真似ることで、発音などの練習にもなります。特に、日常会話で使われる表現を学ぶには、こうした反復練習が効果的です。
また、英語の映画やドラマを観る際に、英語の字幕で見ることでシャドーイングも行えます。これは、聞こえてくる音声を少し遅れて真似して発音する練習方法です。この方法を用いると、ネイティブスピーカーの発音やリズムを身につけることができます。具体的には、まず映画やドラマの一部分を選び、そのシーンを何度か繰り返し見ます。そして、台詞を聞きながら字幕を追い、音声に合わせて声に出してみましょう。このとき、できるだけネイティブスピーカーの発音などを真似することが大切です。最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返すことで徐々に慣れていきます。シャドーイングは、リスニングとスピーキングの強化に効果的ですが、フレーズの丸覚えが目的ではありません。ですから覚える努力は必要ありません。
YouTubeやNetflixなどのメディアでは、音声の速度を遅くすることができます。この機能を利用すると、速い会話や難しい発音をしっかりと聞き取ることができ、シャドーイングの効果を高めることができます。速度を落とすことで、リズムなどを正確に捉えやすくなります。シャドーイングに慣れてきたら通常の速度で練習しましょう。さらに、シャドーイングを行う際には、録音して自分の発音をチェックすることもおすすめです。自分の声を聞くことで、改善点が見えてきます。英語の映画やドラマを楽しみながら、シャドーイングを取り入れて効率的に英語力を向上させましょう。
まとめ:(好奇心 英語)
自分の言葉で英語を表現する力は、丸覚えだけでは得られないスキルです。丸覚えによる英語学習は、初期段階では役立ちますが、コミュニケーション能力のためには、自分自身の考えや感情を英語で直接表現する経験が不可欠です。言語学習はフレーズを覚えることではなく、それらをどのように使いこなすかが重要です。好奇心を持ち、間違いを恐れずに挑戦し続けることで、自分の言葉で英語を話す力が身につきます。また、ネイティブの表現を参考にしながら、言語感覚を磨いていくことが、英語の上達につながると思います。
参考文献:
- Keck, C., Iberri-Shea, G., Tracy-Ventura, N., & Wa-Mbaleka, S. (2006). A Meta-Analysis of the Effects of Interactive Feedback on L2 Writing. Language Learning, 56(1), 153-226.
- Loewenstein, G. (1994). The Psychology of Curiosity: A Review and Reinterpretation. Psychological Bulletin, 116(1), 75-98.
- Swain, M. (1985). Communicative Competence: Some Roles of Comprehensible Input and Comprehensible Output in its Development. In S. Gass & C. Madden (Eds.), Input in Second Language Acquisition (pp. 235-253). Newbury House.
- von Stumm, S., Hell, B., & Chamorro-Premuzic, T. (2011). The Hungry Mind: Intellectual Curiosity Is the Third Pillar of Academic Performance. Perspectives on Psychological Science, 6(6), 574-588.